2020年06月13日

芸能人の違約金

最近、芸能人の不祥事のニュースがありました。
この際、よく話題になるのは、番組やCMの降板等による「違約金」です。

違約金の金額は、数億円、十数億円ではないかと報道されます。
あたかも当該不祥事を起こした芸能人がこのような多額の違約金を支払う義務を負うように見受けられますが、果たして、本当にそうなのでしょうか。

まず、理屈の上から考えると、当該芸能人が芸能事務所に所属している場合、テレビ局やCMのスポンサー、広告代理店との間で番組やCMに関する出演契約を締結しているのは、当該芸能人個人ではなく、芸能事務所と思われます。
そうすると、不祥事による契約上の損害賠償責任を負うのは、当該芸能人個人ではなく、芸能事務所です。
そして、当該芸能人個人に対して損害賠償請求をするのは、上記テレビ局等に損害賠償をすることによって損害を被ったとする芸能事務所です。

次に、結果の妥当性から考えると、この芸能事務所から芸能人個人に対する損害賠償について、芸能事務所が被った全ての損害を芸能人個人に対して請求できるとすると、不当となります。
なぜならば、芸能事務所は、一方で、テレビ局等からの報酬をすべて受け取っておいて、他方で、発生した損害は全て芸能人個人に負わせられるのであれば、芸能事務所は利益を得ているにもかかわらずリスクを負わず、芸能人個人は利益をすべて得られるわけではないのに、リスクは負うこととなるからです。
最近の不祥事に関するニュースでは、違約金は、芸能事務所と芸能人が折半で負担するのが通例と記載してありましたが、仮に、報酬も芸能事務所と芸能人で折半しているのであれば、違約金も折半することはわかるのですが、報酬は折半ではないにもかかわらず、違約金は折半というのは筋が通るのでしょうか。

一般の労働者については、このような労働者に対する損害賠償請求を制限することを、信義則に基づく責任制限と言ったりします。
もっとも、不祥事が重大な過失とか、故意によるものである場合(不祥事というのは大体これに該当するかもしれませんが)、信義則に基づく責任制限はいろいろな事情を総合考慮しますので、責任制限の度合いが小さくなり、芸能人個人の責任割合も大きくなるとは思います。

とはいえ、芸能人個人が損害全額を負担するというのは、芸能事務所と芸能人個人の経済的格差からして、やりすぎだと思います。
さらに言えば、不祥事によって生じる損害というのも、本当に中身が伴っているのか、疑問もあります。
不祥事が発生したことにより、番組を再度作成しなおさなければいけなくなったとか、CMを中止しなければいけなくなったなどの理由があり、その背景には、不祥事を起こした芸能人が出演すると番組の視聴率が下がるとか、商品の売上が下がるとかの理由があると思いますが、実際にこのような裏付けはあるのでしょうか。
そういった不祥事を起こした人の顔を見たくもない、だから視聴率や売り上げが下がる、といった理屈かもしれませんが、顔を見たくもないのであれば、どうして、不祥事を起こした芸能人の出演が取りやめになる一方で、ワイドショーなどではその芸能人の姿を頻繁に見ることになるのでしょうか。

結局、邪推をしてしまえば、テレビ局、スポンサー、広告代理店側は、違約金をとることで損をせず(不思議に思うのは、番組やCMの放送を中止したりせず、実際に放送して、実際に被った損害を違約金として請求すればいいのに、なぜお蔵入りにするのでしょうか)、むしろ、そのネタでワイドショーで視聴率を稼ぎ、芸能事務所は芸能人個人に違約金を負担させることで、芸能人個人のみが負担を負うような仕組みになっているのではないでしょうか。不祥事を起こした芸能人が悪いと言えばそれまでですが、仮に上記邪推のような仕組みであるとすれば、いびつだなと思います。  

Posted by mc1575 at16:37
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